こんにちは。自キ温泉ガイドをしている方のサリチル酸です。
記念すべき50記事目となる今回は、自作キーボードにおいて作者の思想が一番出るキーレイアウトの話をします。
- はじめに
- 用語紹介
- 各レイアウトの紹介方法
- ロウスタッガード(横にずれたレイアウト)
- オーソリニア(碁盤の目状のレイアウト)
- 異形ロウスタッガード(特に左右対称のレイアウト。シンメトリカルスタッガード)
- カラムスタッガード(縦にズレたレイアウト)
- アングルスタッガード
- マトリクススタッガード
- フリースタイル
- 市販のロウスタッガードキーボードのレイアウトについて
- 紹介した各キーボードの販売ページ
- おわりに
はじめに
私はこの記事の執筆時点で10ヶ月もの間自作キーボード温泉に浸かっていることになります。
この温泉に長く浸かっていると忘れがちになってしまうのですが、キーレイアウトは既存の物に比べると攻めている物が多いです。
既存のキーボードといえばスペースキーの長い・短いや、テンキーの有る無し、ファンクションキーの有る無しなどの些細な違いがメインでした。
カーソルキーのないHHKBは一般的には凄く攻めている方なのです。
そのため自作キーボードを見慣れない人が自作キーボードを見ると、思わず「それキーボード?」「どうやって使うの?」「使いにくそう」という言葉になることも無理からぬことです。
そんな方々に対し、自作キーボード設計者が何を考えて、何を期待してレイアウトを考えたかを(私の独断と偏見で)解説したいと思います。
頭の先まで温泉に浸かりきった人に対しては、界隈に溢れる独自配列の振り返りができればと思ってこの記事を書いています。
用語紹介
スタッガード
キーの縦横のズレのこと。
一般的にスタッガードの前にズレの方向を示して区別する。
普通のキーボードは横(行=ロウ)にズレていることからロウスタッガードと呼ばれる。
同様に縦(列=カラム)にずれている場合はカラムスタッガードと呼ばれる。
※エクセルでいつも確認してたけど自キで覚えた!
u
キーの大きさの数え方。
最小のキー(大多数のアルファベットキー)の大きさを1u(イチユー、ワンユー)とし、シフトキーなど長いキーを2u、2.25uと数えていく。
たまにノートパソコンなどで見受けられるアルファベットよりさらに小さいキーは、通常の自作キーボードではほぼ現れない。
各レイアウトの紹介方法
紹介対象について
本記事におけるレイアウトは、アルファベットキーに限ります。
親指で押すキーは特にカオスで分類が非常に難しい為です。
湯加減(移行コスト)について
基本であるロウスタッガードから各配列への移行コストを総合的に採点し、♨マークで表現します。
採点基準は以下の通りです。
- Fキーから見たZ、Qキーの位置関係がロウスタッガード配列のものから離れているか
- ぱっと見でキーボードとして認識できるか(心理的抵抗)
- 一般的なキーキャップセットで、どれだけ印字と実際のキーを一致させられるか(キーマップを手元で確認できる)
で各1項目ずつ0~3で採点します。
♨マークが多いほど湯加減が高く、変態です。
※湯加減が高いほど使いづらいわけではなく、あくまでも慣れるまでの時間の目安です。
また、同じレイアウトの分類でもキットそれぞれの湯加減は異なると思いますので、具体的にどのキーボードで評価したのを書きたいと思います。
※本当はYキーBキー問題があるのですが、その点は今回は考慮しません。
各レイアウトのキーボード紹介について
私の独断で説明しやすいものを選びました。
ロウスタッガード(横にずれたレイアウト)
湯加減
ー(Mint60、Zincで評価)
概要
各列が横(ロウ)にズレた普通っぽいレイアウト。
ザ普通のレイアウトで、実は古のタイプライターのキーから生えるアーム同士が絡まないように各段でズレた配列となっているのが由来。
(通常はAキー列に対し、Qキー列で左に1.25u、Zキー列で右に1.5uズレている)
本レイアウトは今現在デファクトスタンダードとして広く定着している。
採用キーボード説明
Mint60、Zinc、UT47.2
通常のキーボードはQの行からAの行は1.25uズレており、更にZの行はA行より1.5uズレている。
Mint60とZincはZの行がAの行より1.25uのズレであり、全行でのズレが一定である。
こうするとことによってロウスタッガードの利点である移行コストを下げつつ、ホームポジションと担当運指を守りやすく配慮されている。
※そのかわりシフトキーは2uまたは1uの物を選ぶ必要があり、多くの廉価なキーキャップセットは完全に一致できない。
メリット
どこにでもある、ありふれた配列なので移行コストが不要。
キーキャップに選択肢が多い。標準的なキー構成(シフトキーは2.25u、タブキーは1.5uなど)ほど印字とキーマップが一致する。
筆者の所感
まとまりがあり格好良いが、面白くないと感じるのは、多分私が茹だっているから。
とはいえ私もこのレイアウトで慣れたし、今でもこの配列を使うことがある。(UT47.2)
最近、量販メーカーでもこのレイアウトの分割キーボードがちらほら出始めており、ロウスタッガードレイアウトは激戦区である。
オーソリニア(碁盤の目状のレイアウト)
湯加減
♨(一般的なオーソリニア配列、キー印字不一致により)
概要
オーソリニアは全てのキーが碁盤の目状に並んだレイアウト。
ズレが無いので机上には3×10u分の設置スペースだけで済むため省スペース。
Planckなどで海外にも人気がある。
採用キーボード説明
Naked48LED、Naked60BMP、ergo42、helix、Plaid、Rhymestone、Manta60、Manta40
それぞれキー数の違いや左右分離の有無などはあれど、大同小異でまさにシンプルイズベスト。
これ以上説明しようがないくらいシンプル。
メリット
四角いキーを平面に配置する以上、キーを最密に配置できるレイアウト。
最密故に指の移動距離が最短になり、疲労が少なくなる。
また、密度を上げられるのでコンパクトなキーボードに仕上げられる。
廉価なキーキャップセットでは1uのシフトキーなどを揃えられないが、それなりの値段のキーキャップセットか、Planck用のキーキャップセットが販売されているので印字を一致できなくはない。
個人的な所感
今までのロウスタッガードのキーボードで速く打てていた経験と運指に、最密配置と最短距離という合理性を追加できるので攻守最強(と思っている)。
各指の担当範囲をよく考えると、これがスタンダードじゃないのがおかしいとすら感じる。(タイプライターから続く歴史的な経緯がある)
異形ロウスタッガード(特に左右対称のレイアウト。シンメトリカルスタッガード)
湯加減
♨(Treadstone48の場合、Q、Zの位置関係)
概要
ロウスタッガードの右斜め下への運指、左右の指の負担量が一致しない、YとBキーの分担が曖昧などの点を解消したレイアウト。
HHKBレイアウトや様々なノートパソコンのレイアウトも一般的には異形に含む場合もあるが、本記事では文字キーが左右対称のもので前述のオーソリニア、後述のアングルスタッガード以外のものを指す。
採用キーボード説明
Treadstone48、Treadstone32
Treadstone48、Treadstone32は運指を多間接による円運動と捉え、円状に配置している。
Zキー行の左半分とQ行の右半分が通常の逆のズレとなっているが、手を外側から回すように置くとより使いやすい。
詳しくは作者の記事が分かりやすい。
Nirvana Type-SS
Nirvana Type-SSは思想的にはオーソリニアに近く、外側から手を添えたときに自然な角度になり肩が開くように配置している。
answer40
answer40はBキーを中心に左右対称に配置する事で、左右の運指に無理がない範囲でよくあるBを右で打ってしまうクセの吸収を狙っている。
メリット
左右の指の運指範囲を対称にできる。
手元で左右個別に本体角度を変えられない一体型において、スペース対疲労軽減効率が高い。
個人的な所感
個人的に作者の思想を最も感じるレイアウト。
左右対称に整然と並んでいる所から直感的な美しさを感じる。
ただし、Zキーの位置が通常の位置関係にない場合、移行難度が少しだけ上がる気がするが、慣れの範囲でもある。
ロウスタッガードと同じくテンキーレイヤーが使いづらいため、数字列があるか別途テンキーが用意されていると使いやすく感じる。
カラムスタッガード(縦にズレたレイアウト)
湯加減
♨♨♨(Claw44の場合、QZの位置関係、キーボードに見えない、キー印字不一致のため)
概要
各指の長さに合わせ、縦にキーをズラしたレイアウト。
概ね中指に当たるEとIの列を頂点に、左右端に向かって下がっていくレイアウトを取る。
各キットの差異点は主にズレの量である。
採用キーボード説明
Claw44
小指のズレ幅が極端に大きいレイアウト。
Claw44については設計者の紹介記事が非常に秀逸なのでそちらを参照のこと。
NumAtreus
日本国内では珍しい一体型のカラムスタッガードキーボード。
ズレの傾向としては中くらい。
10°くらいの角度がついているので狭い場所でも肩を開いた打鍵姿勢を保てる。
yosino58
Yoshino58は小指列を薬指列から更に1U下げたズレの大きいレイアウトを採用している。
小指の短い人で、QとPを小指で打てる人はとても嬉しいと思われる。
メリット
各指の長さに合わせて列をズラしているため、キレイなタッチタイピングが出来る人は無理なく全キー適切な指で押せるようになる。
自作キーボード以外の既製品ではまず見かけないため、普通の人はキーボードと認知できず、むやみに触られないのも地味にメリット。
またなんか凄い奴(≒ヤベェ奴)と一目を置かれる事になる。
個人的な所感
数字キー行があるキーボードでは各数字で大きくズレると使いづらいため(個人的には数字列はホームポジションから手を浮かせて手元を見ながら打つため)、バランスが難しい分野である。
数字列が無い場合、テンキーレイヤーを使ってのエクセルでの長時間の数字入力がキツいためテンキーが別途必要と感じる。
文字打ちがメインの人に向く印象。
アングルスタッガード
※アングルスタッガードは今回命名した。通常、Alice配列としか呼ばれないから注意が必要。
湯加減
♨♨(Naked64SFの場合、QとZの位置、キーボードに見えないことによる)
概要
所謂Aliceレイアウト。(最初に採用したのがAliceというキーボードであるため)
キーレイアウトの一部からキーキャップの角度が変わり、折れ曲がっている様に見えることが特徴。
採用キーボード説明
Naked64SF
ロウスタッガードをベースとしたAliceのレイアウトとは異なり、オーソリニアをベースとし小指担当分以外のキーの角度を変えた左右対称のキーレイアウト。
純正のAliceレイアウトとは異なり各指で打鍵するキーの角度を揃えている。(右手薬指「.」キー)
小指を締めずに打鍵できるので窮屈感がない。
詳しくはこちらの記事をどうぞ。
salicylic-acid3.hatenablog.com
lain
アルファベットキーの部分については純正Aliceのレイアウトを踏襲したキーレイアウト。
自キ入門者がためらいがちなYキーBキーどちらの指で押すの問題を解決している。
右手薬指の「.」キーのみ同じ担当指内で角度が異なるため注意が必要。
メリット
狭いスペースで肩を開いた打鍵姿勢、小指を下げるということを両立する事ができる。
キーの間からプレートを見せる、というおしゃれができる。
個人的な所感
手首の角度と小指を下げること、離すことを省スペースで両立できるので個人的にとても使いやすいレイアウト。
角度が変わることによる指の違和感は(同じ指の角度が揃っていれば)感じないので、見た目も面白くとても気に入っている。
アングルスタッガードの分割型の販売例は無いが、手首の角度をつけなくていい分割型ならカラムスタッガードでいいんじゃないかと感じている。
とはいえ触ったら意見が変わるかもしれないので、今後のこのレイアウトの発展に期待している。
マトリクススタッガード
湯加減
該当販売キット無し
概要
みなも氏が提唱した異形スタッガード。
Row Staggered + Column Staggered
— みなも@30% (@X___MOON___X) September 10, 2018
= Matrix Staggered !
と言うことで妄想中。
自分のZキー押し間違える問題はこれで解決するハズ#MechanicalKeyboard #自作キーボード pic.twitter.com/ebhBtlhgRQ
縦横を組み合わせたズレを特徴とする。
採用キーボード説明
盆栽
今現在販売されているキットではないが、本スタッガードを提唱したみなも氏が設計したキーボード。
みなも氏によるとキーの押し間違いが無くなったとのこと。
個人的な所感
本スタッガードは格好良いと思うが、利点は不明。(みなも氏にPCBを貰っているのに組み立てていない自分が悪い)
キーレイアウトを見ると、キーの中心間の距離が伸びるため、近年ノートパソコンに採用されているアイソレーションキーボード(キー間が離れているキーボード)の効果が有るのではないかと思われるため、確かに慣れれば打ち間違いは低減しそうだという思う。
手の大きい人にはベストマッチするかもしれない。
フリースタイル
その名の通りズレというより自由そのもの。
これは販売されるかどうかというより作るかどうか。
ほとんどの場合、自分の目的に特化するためキット化はされない。
市販のロウスタッガードキーボードのレイアウトについて
高級カスタムキーボードビルダーであるai03さんが記述されたこちらの記事が非常にまとまっていて分かりやすいです。
ぜひこちらも参照ください。
紹介した各キーボードの販売ページ
ロウスタッガード
Mint60
Zinc
UT47.2
オーソリニア
Naked48LED
Naked60BMP
ergo42
helix
Plaid
Manta60
遊舎工房レンタルボックスで販売
salicylic-acid3.hatenablog.com
シンメトリカルスタッガード
Treadstone48
Treadstone32
Nirvana Type-SS
answer40
カラムスタッガード
Claw44
NumAtreus
yosino58
アングルスタッガード
Naked64SF
lain
MFTにて先行販売
おわりに
久しぶりの入門用の記事でしたが、いかがでしたでしょうか。
正直自分も長いこと温泉に浸かっているため、変態度について麻痺している部分がありますが、概ね感覚については間違ってないと思いたいです。
本記事が自作キーボード選びに役立てられれば幸いです。
本記事に対して問い合わせ等あれば遠慮なく私のDiscordまでどうぞ。
salicylic-acid3.hatenablog.com
本記事はNaked64SFで書きました。