こんにちは。自キ温泉ガイドのサリチル酸です。
今回はArtisanキーキャップを製造、販売する荒涼堂様より依頼がありましたので、Artisanキーキャップ「Thinking face keycap」の製造に至る過程とこだわりをインタビュー形式でまとめたいと思います。
アドベントカレンダー
本記事は自作キーボードアドベントカレンダーの1日目の記事です。
ついに今年もアドベントカレンダーが始まりましたね!
今年は3つも参加するので色々頑張ろうと思います。
インタビュー要約(時間がない人向け)
- 「Thinking face keycap」は個人でありながらも射出成形*1にチャレンジした意欲作。
- レジン版のGBから2年かかってようやく射出成形版をリリース。販売開始までには数々の困難が待ち受けていた。
- 「Thinking face keycap」は単純に顔文字の「Thinking face」をキーキャップにしただけではない。Artisanキーキャップとして見栄えが良いように試行錯誤を重ねている。
- 職場でパッと目を引き、ほとんどの人が見たことがあるので話題の種に最適。
商品リンク
Thinking face keycapshop.yushakobo.jp
人物紹介
まずは荒涼さんのことを教えて下さい。荒涼さんの代表作はTinking face Keycapだと思いますが、他にも様々なキーキャップを作られています。お気に入りの作品は何でしょうか?
うーん、どれも自分の中では明確な動機があって作っていますし、どれもお気に入りなんですよね。
ただ、一番苦労したのは間違いなくTEST MANです。
唯一の生き残り pic.twitter.com/um3br1doUi
— 荒凉 (@Kou_Ryo_0115) 2019年11月30日
めちゃくちゃ苦労したのに結局完成したのは1体のみで、他の個体は軸受が割れてしまって売れなかったのが印象深いです。
またチャレンジしたいですね。
ちなみに私のお気に入りはゲンコツの形のキーキャップとサワガニのキーキャップです。
あのゲンコツキーキャップをそんなに気に入っているのは多分サリチル酸さんくらいですよ(笑)
ちなみに荒涼さんには遊舎工房のレギュラー商品として定着しているJISplit89の監修もしていただきました。基板にSpecialThanksで荒涼さんのアカウント名も入っていたりするんですよ。
そのSpecial Thanksは最近知りました(笑)
私は「こういうのが欲しい!」といくつか意見を言っただけなのですが、役に立っているなら嬉しいです。
さて、早速インタビューを始めていきます。どの様に自作キーボードにハマりましたか?
まずは2017年の年末から2018年頭にかけてキーボードとは全然関係ないところで作りたいものがあってArduinoについて調べてました。
その中でゆかりさんのブログにたどり着きまして*2、そこで自作キーボードというものを知りました。
その後SNSで情報収集をし、2018年の2月ぐらいにMassdropでPlanckを注文しました。
が、全然発送されなくて、よくよく見ると5月発送なので当然なのですが、結局AliexpressでXD60を注文しちゃってました。
それが最初の自作キーボードですね。
その後、日本国内でErgo42やCorneがリリースされ、どんどん自作キーボードの文化にどっぷりハマっていったという流れです。
初めて購入したArtisanキーキャップはどれでした?
DwarfFactoryのMiracle IslandというArtisanキーキャップを見てしまったのがArtisanの始まりです。
7種のカラーバリエーションのどれにするか迷いに迷って、選べないなら全部買えばいいかとall inを選んでました。
当時も今もall inにためらいは無いですね。
なぜArtisanキーキャップを作ろうと思ったんですか?
もともとジオラマなどを作ろうとチャレンジしていたこともありましたが、時間と金銭面が原因で定着しなかったんですよね。
SNS上の共同購入でL2K*3が揃ってしまったし、妻がUVレジンでネイルを作っていたこと、100均でUVレジンなどの材料が手軽に揃ったことなどからやってみようと思いました。
Artisanキーキャップは造形物そのものが小さいので広い作業スペースが必要ないし手軽に楽しんで作ることができた事が大きかったです。
売ろうと思ったキッカケは?
シリコンの型を使った複製って、ポンポン色々なカラーバリエーションができて面白いんですよね。
そうして量産して並べているうちに販売してみようと思ったのです。
Tinking face keycapへの道
最初の作品は?
手のやつです。
美術の授業で自分の手を粘土で作るという経験から、「最初は手で練習するものだ」ということで手のキーキャップを作ることにしました。
次に作ったのは足でしたね。なんで足なんですか?
手を作ったから次は足かなと。
もともと筋肉とか血管の生々しい造形が好きなんですよね。
バイオハザードというゲームのクリーチャーとか、攻略本を穴が開くほど見てました(笑)
なるほど。その次がTinking face Keycapでしたよね。なぜ急に作風が変わったんですか?
作風が変わったというか、SNSで🤔のキーキャップを作って欲しいというツイートが流れてきて。
家に帰ってノリノリで試作したら思いの外反響が大きくて、じゃあグループバイでもやってみるかとなったんですよね。
ここにスカルピーがあるじゃろ? pic.twitter.com/K2BGO2IxZ1
— 荒凉 (@Kou_Ryo_0115) 2018年12月19日
グループバイは確か2019年の正月でしたよね。私も参加しました。
そうです。
そこそこの数の申込みを頂いたので、頑張って1ヶ月くらいかけて作りました。
その後、キーキャップを受け取った方のバズったツイートがあって、再販の声をとても多くいただけました。
夫が指輪っぽい小さな箱をうやうやしく差し出し開いたので、まさか結婚指輪か!?となったら中身はこれでした pic.twitter.com/MXeOd8sVU7
— むらさき (@interestor) 2019年1月30日
いんたーねっつはうすで起きた事件。 pic.twitter.com/7Pn03GDGxA
— yohe (@yohewi) 2019年1月31日
このおかげか、ありがたいことにGB後にレンタルボックスに入れては即完売を繰り返していました。
本当に2019年の年明けからしばらくはずっと🤔を作っていたような気がします。
その需要から射出成形をやろうと考えだした、ということですか?
射出成形をしたら?という声は最初の試作のときから有ったのですが、冗談として流していたんです。
しかし思いの外、同じキーキャップを作り続けるのがしんどかったのと、ネタとして流してたけどホントに射出成形でやったらウケるかなと2019年4月くらい思い始めまして。
そんな感じで結構気軽に発注先を探し始めました。
射出成形ってあまり馴染みが無いのですが、どうやって射出成形を発注したんですか?
最初はアリババなどを利用して中国に発注することを考えましたが、やはり不安が大きかったです。
なので国内で探してみましたが、やはり基本的には断られました。
稀に見積もりを出してくれてもロット5,000個、金型代7桁円はちょっと手が出せませんでした。
それでも諦めずに色々な業種に当たってみると、キーホルダーやノベルティなどの小ロット製品を扱っている業者に当たり、なんとか手が出る値段の見積もりが出たので、チャレンジしたという流れです。
射出成形の苦労話
射出成形用になにか変更は加えたのですか?
GBのときのバージョンは🤔の手の部分が少し出っ張っていた事により前のキーに干渉する報告が有りましたので、少しだけ変えてます。
また、キーキャップ自体の高さを高くしたり、眉毛や口の形を少しだけ変えたり、射出成形のために少しずつですが結構改良しています。
その修正したキーキャップをデータ化して依頼したのですか?
実は実際のキーキャップと原型を送って向こうでデータ化してもらったんです。
なので、デジタル的な作業は何もやってないんです。
だからホラ、裏側を見ると手作り感が残っていますよね。
なるほど、凄いですね! そして最初の試作が届いた、と。
そうです。
2020年のグループバイ一周年に間に合えば、と思いましたが、ギリギリ間に合いませんでした。
ふーん pic.twitter.com/NoHAusbQYk
— 荒凉 (@Kou_Ryo_0115) 2020年1月6日
やっと届いたぜ🤔 pic.twitter.com/oCzdONcpJ5
— 荒凉 (@Kou_Ryo_0115) 2020年1月16日
made in china pic.twitter.com/tCjArlYkYn
— 荒凉 (@Kou_Ryo_0115) 2020年1月16日
そして、待ちに待った試作品が到着したのですが、軸受がキツくてスイッチにはめる事ができず、結局1000個全て使えませんでした。
1000個全て駄目なのはキツイですね。
正直、キツかったです。
交渉してなんとか再製造という事になり、検品用にキースイッチを送ったりしたのですが、その頃から世の中がコロナ禍になりまして。
結局工場が再稼働したのが2020年の6月で、8月に2回目のサンプルが届くも今度はキースイッチから滑り落ちるほどゆるゆるで。
それは…すごい大変でしたね…
そうしたら3回目のサンプル送付前にちゃんとハマることを説明する動画が送られてきました。
現地から送られてきた最新情報です。ちゃんとハマってるし落ちないよアピール pic.twitter.com/IIvlJBnPeK
— 荒凉 (@Kou_Ryo_0115) 2020年9月4日
その後塗装サンプルが届きまして。
今度は顔の溝に入れる墨入れがはみ出しているだとか、まだまだ課題がありました。
そんなこんなで結局再製造されたものが私のもとに到着したのは2021年に入ってからでした。
お疲れさまでした。最後に、どのような人に手にとって欲しいですか?
このようなArtisanキーキャップとしては少しだけ安めに設定したので、初めてのArtisanキーキャップとして手にとって買ってもらえればとても嬉しいです。
ほとんどの人が見たことがあり、パッと目を引くので会社で話題になりやすいと思います。
面白い話をありがとうございました。
商品リンク
Thinking face keycapshop.yushakobo.jp
おまけ
おわりに
私の初のインタビュー記事はどうだったでしょうか。
この記事により「Thinking face keycap」の魅力が少しでも伝われば良いなと思います。
この他にも「Thinking face keycap」のこだわりポイントは満載なので、是非その手で確かめてみてください。
本記事に対して問い合わせ等あれば遠慮なく私のDiscordまでどうぞ。
salicylic-acid3.hatenablog.com
この記事はNaked64SF v3 Proto3+Gateron 3 Pins G Pro White Linear Silver Switches+Infinikey Sanctuary Rebirth keycapsで書きました。
*1:射出成形とは、金型に溶けたプラスチックを溶かし入れて形成するため大規模な施設が必要で、大量生産に向いた手法。
*2:https://eucalyn.hatenadiary.jp/entry/original-keyboard-toc
*3:※L2Kとはレゴを利用してキーキャップのシリコン型を作るためのパーツのこと。http://artisanalliance.mx/L2K/