自作キーボード温泉街の歩き方

自作キーボードの世界は温泉に例えられます。自作キーボードの温泉街の楽しい歩き方を紹介します。

アルミ削り出しキーボードを作ってみたよ!

今年は遅れないようにアドベントカレンダーへの参加を絞ったサリチル酸です。どうもです。

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今回はタイトルの通りアルミ削り出しキーボードを作った所感と自慢をするよ!という記事です。

アドベントカレンダー

本記事は自作キーボードアドベントカレンダーの11日目の記事です。

adventar.org

10日目の記事はsatromiさんの「TRONキーボード製作のあれこれ」という記事でした。

私はTRONキーボードを所有しているわけでは有りませんが、TRONキーボードの設計思想や論文については大いに参考にさせて戴いているところです。

具体的にはNaked64SFv3の開き角度やErgoArrowsのカーソルクラスタについてはTRONキーボードの影響をもろに受けている部分です。

はじめに

今やっている自キカツを紹介するよ!の中に何度か出ていましたが、Naked64SFの更新を色々な方法で検討していました。

私の設計するキーボードの中でもNakedシリーズは自分の好きを自由に表現する事がコンセプトで、特にNaked64SFは私のお気に入りのキーボードです。

お気入りのキーボードなので微変更では満足できずに色々やりすぎた結果、見事に迷走した経緯を書いておこうと思います。

Naked64SF v2の設計

ケース方針

HMKBの無骨でレトロでどこか新しい板金ケースに惚れた結果、Naked64SFの次期バージョンとして板金ケースを採用しようとケースの設計をはじめました。

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HMKBのステンレスバージョン。当然買いましたが届く気配が全く無いです。

HMKB 75 – Heavy Metal Keyboards

初めてのFusion360で、初めての3Dモデリングは凄く苦労しました。

うまく行かない理由が分からなかった。。

それでも10回くらい0から作り直すを繰り返すとなんとか形になりました。

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HMKBの構造を参考に、なんとか形には出来ました。

プレートマウント方式

板金ケースはアルミ削り出しケースと違って密閉出来ませんし、流行りのガスケットマウント方式(柔らかいガスケットを介して上下のケースでスイッチプレートを挟み込む方式)を採用できません。

それでも板金ケースに直接ネジどめしてしまうとカッチカチになってしまうと思われるので、HMKBでも採用されたグロメットマウントを採用することにしました。

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黄色い丸いやつがグロメットです

グロメットというのは板などに開けた穴にケーブルを通す際に、ケーブルの保護のために穴にはめるゴムのパーツです。

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グロメットと一言で言っても様々な種類がありますが、キーボードのスイッチプレート用として適している(板厚1.5mm、内径3mm)ものはそうありませんでした。

それでも20種くらいのグロメットを取り寄せたところ、なんとか良さそうなものを見つけることが出来ました。

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2層アクリルの採用

またこの頃は打鍵感を柔らかくするため、プレートに切れ込みを入れたりするのが流行り始め、それも気になったのでより柔らかくできるように新しい素材も試作することにしました。

そこで見つけたのが行きつけの工作室で勧められた、表札用の2層アクリルです。

1.5mmの選択肢が有り、 ポリカーボネートと同じくらい柔らかく、レーザーカットでき、安いのでとてもキーボードのスイッチプレート向きだと思いました。

ちなみにここで買えます。

私はレッドマーブル、ブルーマーブルが好きです。

追加機能

Duplex Matrixという技術を用いることでNaked64SFのピン数に余裕が出来たので、新しい機能も盛り込んでみることにしました。

用途を特に決めず、とりあえずロータリーエンコーダ×2とトラックボールを追加してみました。

検証

使い心地を検証するため、まずは得意のPCBの積層構造でProto版を作成することにしました。

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  • 2つのロータリーエンコーダは使う用途が思い浮かばなかった(音量Up/Down、上下スクロール)
  • トラックボールはやはりケンジントン等の専用デバイスが使いやすく、あまり使わなかった
  • グロメットの打鍵感は柔らかくて非常にいいが、強く打鍵すると横振動を感じる

このv2 Proto版の頒布は考えましたが、v1とファームウェアの互換性がなく、組立にとても癖があるので一旦は諦めました。

板金ケース発注、そして挫折

HMKBがとてもリーズナブルだったので、板金ケースは国内ベンダーでやっても採算がとれるんじゃないかと思い、発注をしてみました。

しかし、所詮素人の拙い発注に返答が無いことも多く、出てきた見積もりも満足できるものでは有りませんでした。

こんなにかかるなら中国で削り出ししてもいいんじゃないか?という思いが鎌首をもたげてきました。

Naked64SF v3の設計

ケース方針

削り出しを行うと仮定した時に、どうせなら削り出しでしかできないことをやろうと考え、欲しいなとブックマークしていたType-Kを思い出しました。

[IC] Type K - Tented Ergo keyboard

Type-Kは一体型Alice配列のキーボードでありながら中央に向けてテントした(体の内側を上に持ち上げた)構造になっています。

なんとなく、この真ん中の折り曲げたようなラインが格好良くないですか?

この形状こそ削り出しならではかなと思い、Type-Kのように内側が盛り上がった構造にしようと決めました。

テントのテスト

テント機構自体は分割型キーボードにおいては珍しいものではありません。

最悪、内側に厚みのあるクッションを敷けばテントします。

7sKBの内側にハンドタオルを敷いて打鍵テストをしていると、気づきました。

手首の負担は内側をテントした方が軽くなりますが、親指はテントすると違和感を感じるということが分かりました。

親指キー

また、親指キーの取り付け方向も掘り下げて考えます。

自分の親指をよく観察すると、他の指に比べて可動範囲は広いですが第一関節を動かす動作は遅いことが分かりました。

これは以前大作のビルドログを書きましたColosseum44のキーを「握って押す」親指キーの使い心地を考えても符合します。

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Colosseum44の親指キーは親指の稼働に対して垂直にキーを配置し、握り込む用に押すことができる

通常のキーボードでは親指の根元の関節を動かし、親指の第一関節は固定して、親指の側面でキーを「叩く」動作でキーを入力します。

そのために、「握って押す」キーに違和感を感じているのでした。

ということで、親指キーは握り込む方向ではなく、叩く方向に配置することにしました。

せっかくですし、親指キーだけを下げようと考え、親指キーを下げつつ水平にしてみようと考えました。

逆チルト

もう一度Type-Kをよく観察すると、7°のチルト(奥側をあげて手前側を低くする)を組み合わせて相対的に親指キーを下げているようです。

でも、私は逆チルトが手首が疲れなくて好きなんです。

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Naked64SF v1のオプションのパームレストと組み合わせて逆チルトでも快適に

そこでボトムケースを上下逆の取り付けに対応することで正チルトと逆チルトの切り替えを実現することにしました。

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正チルトは普通のパームレストでも良さそうですが、逆チルトに必要なパームレストはかなり高さが必要なのでポリカーボネートか木材の削り出しで作ろうと考えております。

粘土をこねてみる

v2の時にいきなりFusion360に取り掛かって苦労したので、今回は最初に大まかに粘土で形を決めておきます。

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意外と楽しかった

大きさは15cmくらいでしたが、漠然と考えていた面の繋がりの構成を明確にする切っ掛けになりました。

慣れない3Dモデリングをグリグリ進めていくよりは直感的でいいかと思います。

この粘土モデリングを2回ほど行いました。

ダンボールを積み重ねて角度の確認を行う

自分にとって異質な形状ですので、実際に手をおいて確認したくなりました。

余っていたv2 Protoのスイッチプレートを簡単に加工して手をおいて感触を確かめてみました。

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手首が辛くない、これなら行けると決断出来た

テント角度を何度も確認した結果、Type-Kと同様の7°の角度がバランスが良さそうでした。

設計にあたって

各種寸法やクリアランスなどはkbd67mk2を多大に参考にさせていただきました。

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foostanさんの記事にあるPolarisを参考にしなかったのは、Polarisのガスケット方式とはクリアランスの量が異なることが想定されたからです。

モデリングの手順などはこちらの記事を参考にしました。

scrapbox.io

コスト削減の努力

CNCの気持ちになる

超複雑な形状ゆえに高コストとなることが予見されたので、CNCの気持ちになって少しでもコスト高となる設計を排除していきました。

CNCの気持ちになるためにはこちらの記事がとても参考になりました。

monoist.atmarkit.co.jp

ウェイトを選択性にする

真鍮ウェイトが高級キーボードには当然の装備となっています。

ウェイトの理由としては安定感の増加だけでなく、異種金属を接合することで固有振動を減らし、変な音の響きを減らすことが出来ます。

しかし、真鍮という金属は結構簡単に錆びます。

なので外側から見える位置に真鍮を配置する場合は塗装が必要になるのですが、これがとても歩留まりが悪い(不良率が高い)ので値段が高くなる要因となります。

そこで、外側からウェイトが見えない構造とし、ウェイト自体は車用バランスウェイトを自分で仕込むようにすることにしました。

【LR.store】 鉄製 バランスウエイト 6kg [ 5g ・10g 刻み ] / 貼り付けウエイト タイヤチェンジャー ホイールバランサー 薄型 貼り付けタイプ テープ 小分け メンテナンス 整備 バランス調整 重り ホイールバランス ホイール タイヤ 自動車 バイク カー用品

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こうすることで内側は少し不格好ですが、真鍮ウェイトと同等程度には重くすることが出来ます。

もちろん軽いほうがいい人はウェイトを仕込まなければ約2キロとすることが出来ます。(それでも重いのは我慢して。少しでも軽くして持ち運ぶ?冗談でしょう?)

ロゴについて

CNC業者からのコスト低減の提案によってロゴの彫込でなく、レーザー彫刻とインクの流し込みによる表現としました。

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鮮やかでとてもいい

発注

先人たちに習い、Alibaba等で5社に見積もり依頼を行って決定しました。

発注にあたって参考にした記事はこちらです。

5z6p.com

発注先については先人たちからアドバイスを多大に戴いていますので、安易に公開する事はできません。

でも、心構えとしてはこちらを参照しておくといいと思います。

wiki.ai03.com

できたもの

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ヒョー!!!!カッコいい!!!!!(自画自賛

仕様等の詳細な情報は別記事にまとめようと思いますので乞うご期待。

販売計画

販売は限定数での在庫販売をしたいと思います。

まずは広く販売を告知せずに私の個人Discordサーバー内で募集を行おうと思います。

v3は値段から継続販売が厳しい可能性が高いので、気になる方は是非Discordサーバーに参加してみてください。

salicylic-acid3.hatenablog.com

※おそらくDiscordサーバの参加者へ優先して頒布すると思います。

余談:とある小説家に営業した話

※まだ終わっていない&先方の許可を貰えていないので、個別のやり取りについては省略しております。

発端

マツコの知らないキーボードの世界を見ていたとある小説家のTweetを見て、営業してみました。

試作品のキーボードを送ってみた第1弾

とりあえず手元にあった展示用及び検証用キーボードを送ってみました。

送ったキーボードは、7sKB(MX)、7sKB(Choc)、Naked60BMPです。

写真にある通り7sKB(MX)をとても気に入っていただけたようです。

使用したスイッチはこの記事のスイッチです。

salicylic-acid3.hatenablog.com

その後も何度か先生のTweetに元気に登場しているところを確認しているのでとても嬉しいです。

キーボードを作る

この7sKBのフィードバックを受けてあるキーボードを作りました。

それがNKNL7EN(近日発売予定)です。

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レイアウトのみのやり取りだったので、余白の意匠は私が好き勝手にやりました。

名前といい、少し狙いすぎた感がありますね。

残念ながらこのNKNL7ENは合わなかったようですが、先生の友人(プロの小説家)にはいたく気に入ってもらえたようです。

神になりました。

ご友人の方からもオファーを頂き、このNKNL7ENはその先生の元で元気に活躍しているようです。

よかったです。

試作品のキーボードを送ってみた第2弾、第3段

第2段にNKNL7EN、AJisai74を、第3段にJISplit89、NKNL7JPを送らさせていただきました。

今後、これらのキーボードの使用感を踏まえた新作キーボードを出せればいいなあ、と思っております。

注釈

私は個別にオーダーを受けてキーボードを作るサービスは行っていません。

が、興味のあるアイデアや要望があれば勝手に作ります(&お礼もします)ので、興味があれば私のDiscordの #こういうの作って! チャンネルにお気軽にどうぞ。

おわりに

本記事についてのお問い合わせは私のDiscordまでどうぞ。

salicylic-acid3.hatenablog.com

この記事はNaked64SF v2 Proto版+2層アクリルスイッチプレート+C³Equalz X TKC Tangerine Switches+TaiHao ABS Dark Knight Keycapsで書きました。